生活・暮らし

卵子ドナーのプロフィールで何を見るか?夫婦で決めた3つのルール

初めて卵子ドナーのファイルを見せてもらった日のことは、いまでもよく覚えています。
エージェントの事務所の小さな部屋で、机の上に分厚いファイルが置かれました。

1時間ほどして顔を上げると、私は写真のページばかりめくっていました。
隣の夫は家族の病歴の欄をメモしていて、二人の手元のメモはまったくかみ合っていませんでした。

はじめまして、ライターの桐谷真帆です。
旅行会社で海外手配の仕事を10年したあと、いまは旅と子育ての記事を書いています。
43歳で卵子提供を受けると決め、ハワイのクリニックで移植を受けて、45歳で娘を出産しました。

あの日、帰りの電車で夫と話し合い、ドナーを選ぶ前に3つのルールを決めました。
この記事では、プロフィールに何が載っているのか、私たち夫婦がどの順番で読んだのかを書きます。
これからファイルを見る方が、私たちのように最初の1時間を迷って過ごさずにすむように、と思ってまとめました。

卵子ドナーのプロフィールに載っていること

項目の名前や細かさはエージェントによって違います。
それでも、日本人ドナーを紹介しているエージェントの公開情報を読み比べると、大きくは次のような項目に分かれます。

項目主な中身
写真現在の写真、幼少期の写真
基本情報年齢、身長、体重、血液型
社会的な情報学歴、職業
本人の健康既往歴、アレルギー
家族の健康遺伝的な病気の有無、親族の病歴
提供の経験過去に採卵したことがあるか
人柄性格や趣味、登録した理由(載せていないエージェントもあります)

見落としやすいのが「どこで、どう見るか」です。
ドナーの情報は個人情報なので、エージェントの事務所で紙の資料を見せてもらう形をとるところがあります。
コピーや持ち帰りはできないことが多いと考えておいたほうがいいです。

家でゆっくり比べられない以上、何を見るかは事務所に行く前に決めておく必要があります。
私たちはこれを知らずに出かけ、写真に時間を使い切ってしまいました。

旅行会社で働いていたころ、私は限られた時間で現地を回るお客様のために行程表を作っていました。
見る場所の順番を先に決めておくと、当日に迷う時間が減ります。
ドナーのファイルも同じで、二度目からは次のような準備をして事務所に行きました。

  • 夫婦それぞれ、絶対にゆずれない条件と、気にしない条件を紙に書いておく
  • 一人あたり何分かけて読むか、時間の目安を決めておく
  • メモは同じ書式にして、あとで二人の評価を並べて比べられるようにする
  • 分からない項目は、その場で担当者に聞く質問としてメモに残す

最初は写真ばかり見ていた

あとで知ったのですが、写真に目がいくのは私だけではありませんでした。

欧州ヒト生殖学会(ESHRE)は2022年に、提供による生殖医療で誰にどんな情報を伝えるべきかをまとめた推奨文書を出しています。
そこでは、卵子ドナーを選ぶ人がいちばんよく求める情報として、次の2つが挙げられています。

  • 健康な子どもを持つための、ドナーの健康に関する情報
  • ドナーが家族と見た目の上で似ているかどうかの情報

さらに、ドナーが妻に似ているかどうかは、夫より妻にとって大事になりやすいとも書かれています。
読んだとき、事務所での私と夫の姿そのままだと思いました。

同じ文書には、選べることは安心につながる一方で、手元の候補に不満が出たり、与えられた情報だけで決めなければならない重さを感じたりする人もいると書かれています。
写真を何枚も見比べるうちに、私は一人ひとりの「気になるところ」を探すようになっていました。
選ぶ作業が、いつのまにか減点の作業に変わっていたのです。

夫婦で決めた3つのルール

帰りの電車で夫と話したのは、「全部を同じ重さで見るのはやめよう」ということでした。
そこから決めたのが、次の3つです。

ルール1:健康と家族の病歴を先に読み、写真は最後に見る

1つ目は、読む順番を決めることでした。
最初に健康と家族の病歴のページを読み、条件に合う人だけ写真を見る、という順番です。

写真を先に見ると、気に入った人の病歴欄を甘く読んでしまいます。
順番を逆にしただけで、二人のメモがそろうようになりました。

最初のページで確かめたのは次の項目です。

  • 本人の既往歴とアレルギー
  • 両親と祖父母の病歴、とくに遺伝が関わる病気
  • 年齢
  • 過去の採卵の経験と、そのときの経過

年齢には目安があります。
米国生殖医学会(ASRM)の配偶子・胚の提供に関するガイダンス(2024年版)は、卵子ドナーは21歳から34歳が望ましいとしています。
同じガイダンスは、ドナーの体への負担を考えて、1人のドナーの治療周期を6回までとしています。

日本では、不妊治療クリニックの団体であるJISARTの精子・卵子の提供による体外受精に関するガイドラインが、卵子の提供者を原則35歳未満、同じ人からの採卵を3回までとしています。
このガイドラインはJISARTに加盟するクリニックで行う卵子提供のためのものです。
海外のクリニックやエージェント経由の場合は、それぞれの基準を自分で聞いて確かめることになります。

採卵の経験は、私たちも参考にしました。
ただ、前回の結果が良かったからといって、次も同じになるとは限りません。
経験は判断材料のひとつにとどめ、それだけで決めないようにしました。

もうひとつ、読みながら頭に置いておきたいのが、書かれている情報にも限りがあることです。
家族の病歴は、多くの場合ドナー本人の申告がもとになっています。
祖父母の代のことまで本人が正確に知っているとは限りません。

ASRMのガイダンスも、提供を受ける側へのカウンセリングで扱う話題のひとつに「ドナースクリーニングの限界」を挙げています。
私たちは、病歴欄が空白の人を外すのではなく、分からない項目は担当者に質問して確かめるようにしました。

ルール2:「似ている」の条件は2つまで

2つ目は、見た目の条件を2つに絞ることでした。
私たちが残したのは「血液型」と「全体の雰囲気が私とかけ離れていないこと」です。

目の形、身長、学歴と、気にしようと思えばいくらでも条件は増えます。
けれど条件を増やすほど候補は減り、残った人の小さな違いばかりが目につきました。

学歴と職業は、順位をつける材料には使わないと決めました。
その人がどんなふうに暮らしてきたかを想像するために読む欄、という扱いです。

このルールには、もう一つ取り決めがありました。
「似ているか」の判断は私に任せる代わりに、私が3つ目の条件を言い出したら夫が止める、という役割分担です。
ESHREの文書にあったとおり、こだわりが強くなるのは私のほうでした。
実際、夫に止められたことが二度あります。

一度目は「二重まぶたの人がいい」と言いかけたときでした。
夫に「それは3つ目だよ」と言われて、自分が娘の顔を勝手に思い描いていたことに気づきました。

二度目は、候補が2人まで絞れたあとです。
私が「身長が私に近いほう」と言い出し、夫が「それで決めて後悔しない?」と聞き返しました。
結局、二人で決めた条件の範囲で話し合い、最後は病歴欄の記載がより詳しかった人を選びました。

ルール3:子どもに話せる理由で選ぶ

3つ目は、選んだ理由を、いつか娘に話せる言葉にしておくことでした。

娘には、卵子提供で生まれたことを小さいうちから伝えるつもりでいました。
JISARTのガイドラインも、提供を受ける夫婦に、0〜2歳の幼いころから子どもに伝える考えを持つよう求めています。
ESHREの文書も、伝えるなら幼いうちに、そして1回で終わらせずに少しずつ話していくことを勧めています。

共同通信が2026年9月に報じたこども家庭庁の研究班の調査では、回答した全国416の生殖補助医療施設のうち96.5%が「出自告知をすべきだ」と答えていました。
伝えることは、もう特別な選択ではなくなってきています。

伝えると決めると、「なぜこの人を選んだの」と聞かれる日も来ます。
「写真がきれいだったから」では、娘に話しにくいと思いました。
私たちが用意した答えは、こんな言葉です。

あなたを授かるために、健康で、自分の意思で協力してくれた人を選びました。
その人のことで分かっていることは、聞かれたらいつでも話します。

いまは、個人向けのDNA検査で血縁のある人を探せる時代です。
ASRMのガイダンスも、こうした検査によってドナーの匿名を保つことが難しくなっていると指摘しています。
親が話さなくても、子どもが自分で知る可能性はあります。
だからこそ、どうしてこの人を選んだのかを親の言葉で話せるようにしておきたいと考えました。

もうひとつ、ドナーについてどんな情報が残り、子どもが何を知ることができるのかも確かめておきたい点です。
英国ではHFEA(ヒト受精・胚機構)のドナー情報の開示制度により、2005年4月以降のドナーから生まれた人は、16歳で身長や目の色などを、18歳でドナーの氏名と生年月日を請求できます。

日本には、こうした制度がまだありません。
提供した人の情報の保存や開示を定める法案は、参議院の議案情報によると2025年2月に提出されたものの、審議未了で廃案になりました。
2026年10月の時点でも成立していません。

そのため、将来子どもに何を伝えられるかは、エージェントやクリニックの方針しだいです。
JISARTのガイドラインでは、15歳以上の子は氏名や住所を含めて提供者の情報の開示を求めることができます。
一方で、ドナーを特定できる情報は子どもにも開示しない方針のエージェントもあります。

どちらの方針にも理由があります。
私は、その違いを知らないままドナーを選ぶことだけは避けてほしいと思っています。

私たちは契約の前に、ドナーの記録がどこに、どのくらいの期間残るのかを担当者に質問し、答えを書面でもらいました。
娘が大きくなって「その人のことを知りたい」と言ったとき、どこに問い合わせればいいのか。
その答えを手元に置いておくことも、親としての準備のひとつだと考えたからです。

ドナー情報を見る前にエージェントに確かめたいこと

ファイルを見に行く前に聞いておけばよかったと思うことを表にしました。

確かめたいこと理由
どの項目が載っているか家族の病歴や性格の欄がないこともある
どこで、何回見られるか持ち帰れないなら、事前に基準を決める必要がある
候補は何人まで選べるか第1希望のドナーと日程が合わないこともある
ドナーの検査は何をしているか感染症や心理面の確認の範囲は会社によって違う
子どもに伝えられる情報は何かドナーを特定できる情報が残るかどうかで、将来の話し方が変わる

答えをはっきり公開しているエージェントもあります。
たとえばモンドメディカルは、ドナー情報の扱いについて公式サイトで次のように説明しています。

  • 資料は会社で管理する紙の資料で、個人が特定されない形で見る
  • 載っているのは現在と幼少期の写真、年齢・身長・血液型・学歴・職業などの基本情報、既往歴、採卵の経験、家族の遺伝的な病気の有無
  • 希望に合う人が見つかるまで何回でも見られる
  • ドナーと夫婦は原則として会わず、直接のやり取りもしない

同社のドナー向けページには、将来子どもから問い合わせがあっても、ドナーを特定できる情報は開示しないと書かれています。
ルール3の視点で見ると、ここは夫婦で話し合っておきたいところです。

2026年9月には、公式ブログで出自告知を取り上げ、子どもに伝える前提でドナー情報を考えることにも触れていました。
相談する前に会社の考え方をつかんでおきたいなら、モンドメディカルの評判を確かめる手がかりとして公式Xの発信も読んでおくと、話を聞くときに質問を考えやすくなります。

まとめ

卵子ドナーのプロフィールには、写真、基本情報、学歴や職業、本人と家族の健康、提供の経験などが載っています。
多くの場合、事務所で紙の資料として見ることになるので、見る項目と順番は行く前に決めておくと迷いません。

私たち夫婦が決めたルールは次の3つでした。

  • 健康と家族の病歴を先に読み、写真は最後に見る
  • 「似ている」の条件は2つまでにする
  • 子どもに話せる理由で選ぶ

ドナーを選ぶ時間は、思っていたより短くて、重いものでした。
あのとき夫と決めた順番があったから、最後は二人とも納得して1人を選べたと思っています。
これからファイルを開く方も、まずはご夫婦で「何から読むか」だけ話してみてください。