はじめまして、藤本 愛です。
大阪薬科大学を卒業後、大手製薬メーカーの品質保証部門でバリデーション業務やGMP対応に12年携わっていました。
現在はフリーランスのライターとして、製薬業界のリアルを伝える記事を書いています。
「バリデーション」という言葉、製薬業界の外ではほとんど耳にしないと思います。
でも就職・転職を考えて製薬業界を調べていると、必ずと言っていいほど出てくる言葉です。
この記事では、私の実務経験をもとに医薬品バリデーションとGMPをわかりやすく解説します。
難しそうに見える言葉も、実態を知れば「なるほど、そういう仕事か」とわかってもらえるはずです。
目次
医薬品バリデーションとは何か
バリデーション(Validation)の直訳は「検証」や「妥当性確認」です。
医薬品の製造現場では、より具体的な意味で使われます。
GMP省令(医薬品及び医薬部外品の製造管理及び品質管理の基準に関する省令)では、バリデーションを次のように定義しています。
製造所の構造設備並びに手順、工程その他の製造管理及び品質管理の方法が期待される結果を与えることを検証し、これを文書とすること
平たく言えば、「この方法で製造すれば、一定の品質の薬が必ず作れます」を科学的に証明して書類に残す、ということです。
薬は「たまたまうまく作れた」では困ります。
患者さんが飲む医薬品は、どのロットで製造しても、どの工場で作っても、同じ品質でなければなりません。
バリデーションはその「再現性」を担保するための仕組みです。
バリデーションが法律で義務付けられた背景
バリデーションの義務化は、1960年代に欧米で起きた薬害事件が出発点の一つです。
サリドマイド事件を契機に、製造工程の科学的な証明を求める規制の動きが世界的に広まりました。
日本では2004年に現行のGMP省令が制定され、バリデーションの実施が明確に義務付けられています。
2021年の改正では「医薬品品質システム(PQS)」の概念が加わり、個別工程の検証から製造システム全体の品質管理へと考え方が発展しています。
PMDA(医薬品医療機器総合機構)はGMP適合性調査を通じて、製薬会社のバリデーション実施状況を定期的にチェックします。
この調査をパスできなければ、製品の製造・販売許可は下りません。
バリデーションの種類
バリデーションは一種類ではありません。
製造工程の何を検証するかによって、いくつかの種類に分かれます。
現場では担当するバリデーションの種類によって、日々の仕事内容もかなり変わります。
私が実際に携わったものも含めて整理します。
適格性評価(クォリフィケーション)
製造設備そのものを対象にした検証です。
「この機械は正しく動いていますよ」を4段階のフェーズで証明します。
| フェーズ | 略称 | 内容 |
|---|---|---|
| 設計適格性評価 | DQ | 計画段階。設備の設計が要件を満たすか確認 |
| 据付適格性評価 | IQ | 設置後。正しく取り付けられたか確認・文書化 |
| 運転適格性評価 | OQ | 稼働時。仕様通りに動くか確認・文書化 |
| 性能適格性評価 | PQ | 実稼働時。期待する性能が出るか確認・文書化 |
現場では「今回の設備はIQ/OQ/PQのスケジュールが…」という会話が普通に飛び交います。
新しい設備を導入するたびにこのフェーズを順番に進めていく、というのが基本の流れです。
プロセスバリデーション
製造プロセス全体を対象にした検証です。
設備が動くことを確認した後、「その設備を使って実際に薬を作ると、毎回同じ品質になるか」を証明します。
試験製造を複数回繰り返し、データを蓄積して「再現性がある」と示すのが基本的な進め方です。
私の現役時代は、この計画書と報告書の作成が業務の中心でした。
洗浄バリデーション
製造設備の洗浄工程を対象にした検証です。
ある製品を作った後に設備を洗浄したとき、「次の製品に成分が持ち越されないか」を科学的に証明します。
地味に見えますが、製品間の交差汚染を防ぐための重要な検証です。
分析法バリデーション
品質試験に使う分析方法の妥当性を確認する検証です。
「この測定方法で正しく測れているか」を科学的に証明します。
コンピュータ化システムバリデーション(CSV)
GMP関連のコンピュータシステムが正確・信頼できる形で動作することを検証します。
製造記録の電子化が進む中で、近年は特に重要性が増している分野です。
GMPとは何か、バリデーションとの関係
バリデーションの話をするとき、GMPについても触れないわけにはいきません。
GMP(Good Manufacturing Practice)は、医薬品の製造管理・品質管理に関する国際的な基準です。
「優良医薬品製造規範」とも呼ばれます。
厚生労働省が定めるGMP省令がその根拠法令で、バリデーションの実施もこの省令第13条で義務付けられています。
GMPには国際的なバージョンもあります。
PIC/S(医薬品査察協定及び医薬品査察協同スキーム)が策定するPIC/S GMPがそれです。
日本は2014年にPIC/Sに加盟しており、国際基準との整合性を保つ方向で省令改正が続いています。
GMPとバリデーションの関係をひと言で表すなら、「GMPはルール、バリデーションはそのルールを守っていることを証明する手段」です。
GMPという大きな枠組みの中に、バリデーションという検証作業が組み込まれています。
なお、日本製薬工業協会(JPMA)の公式Q&Aでは、GMPをはじめGQP(製造販売後の品質管理基準)・GVP(安全管理基準)など、医薬品の品質がどのように守られているかを一般向けにわかりやすく解説しています。
製薬業界への就職を考えている方は、こうした基礎情報を事前に押さえておくと面接の場でも役立ちます。
品質保証(QA)と品質管理(QC)の違い
製薬会社の品質部門には「QA」と「QC」があり、混同されがちです。
QAは品質保証(Quality Assurance)の略で、製造工程・システム全体が正しく機能しているかを監視し、品質を保証する部門です。
QCは品質管理(Quality Control)の略で、製品や原材料の試験・検査を実施し、規格適合を確認する部門です。
バリデーション業務はQAの仕事として分類されることが多いです。
会社によっては製造部門や技術部門が担う場合もあります。
現場でのバリデーション業務、私の経験から
実際の仕事を体感的に知っていただくために、私の現役時代の話を少しします。
業務の大半は文書作成です。
バリデーションプロトコル(試験計画書)を作成し、実際に試験・測定を実施し、バリデーションレポート(試験報告書)にまとめる、というサイクルを繰り返します。
社内の承認フローが複数あるため、関係部署との調整も仕事の重要な一部です。
製造部門・品質管理部門・設備担当者、時にはシステムベンダーと連携しながら進めます。
英語が求められる場面も意外と多かったです。
使用する分析機器や製造設備の多くは欧米メーカー製で、仕様書・マニュアル・技術文書はすべて英語です。
海外メーカーの担当者とメールで直接やりとりすることも日常的でした。
製薬業界への就職・転職を考えている方に正直に伝えると、地道な仕事です。
「バリデーションが通りました」という達成感はあります。
でも日々の業務は書類と向き合う時間が長く、華やかさはありません。
それでも「この薬は安全に作れます」を証明する仕事のやりがいは、やってみると確かに感じます。
一つ、経験から学んだことを共有します。
バリデーション業務は「問題が起きなければ評価されない仕事」という側面があります。
品質を保証する仕組みを整えること、それが評価されるようになるまでは時間がかかります。
でも逆に言えば、「問題が起きなかった」という実績は、積み重ねるほどに信頼として返ってきます。
長く続けるほど、社内でも社外でも「品質のプロ」として認知される仕事です。
バリデーション専門会社という選択肢
製薬会社の品質保証部門でバリデーションを担当する以外に、バリデーション専門のコンサルティング会社に就職するという選択肢があります。
あまり知られていないルートですが、キャリアの幅が広がりやすい選択肢です。
製薬メーカー内のバリデーション担当は自社の設備・製品しか扱いませんが、専門コンサル会社は複数の製薬会社を横断して仕事をします。
さまざまな設備・プロセス・製品に触れるため、技術的なバリエーションが広がります。
フィジオマキナ株式会社(旧・日本バリデーションテクノロジーズ株式会社)は、その代表的な専門会社のひとつです。
GMP対応の文書作成、設備の適格性評価、プロセス改善コンサルなどを全国の大手製薬会社向けに提供しています。
従業員22名という少数精鋭ながら大手製薬会社を顧客として持ち、ホワイト企業ゴールド認定を5期連続で取得しています。
日本バリデーションテクノロジーズ株式会社(現フィジオマキナ)の詳しい企業情報はこちらで確認できます。
専門コンサル会社での経験は、後に製薬メーカーへの転職でも強みになります。
「複数のメーカーのバリデーションを経験している」というキャリアは、品質保証の専門家として評価されやすいです。
もう一つのメリットは、仕事のスピード感です。
製薬メーカー内のバリデーション担当は、定期的な周期バリデーションや設備保守など、継続業務が中心になることもあります。
コンサル会社の場合はプロジェクト単位で仕事が完結するため、定期的に新しい課題に向き合えるのが特徴です。
「同じルーティンが続くのは飽きやすい」という方は、コンサル形式の働き方の方が合うかもしれません。
バリデーション職に求められるスキル
バリデーション職への就職・転職を考えている方向けに、求められるスキルをまとめます。
GMP・薬事の基礎知識
GMP省令の内容、バリデーションの概念、ICHガイドライン(医薬品規制調和国際会議が策定する品質ガイドライン)の基本知識が仕事の前提になります。
最初から全部知っている必要はありません。
実務の中で学んでいく仕事なので、「覚えていく姿勢」が大切です。
文書作成力
バリデーション業務の中核は文書作成です。
プロトコル・レポートを論理的に・正確に書く力が問われます。
製薬会社や規制当局にレビューされることを前提とした文書なので、あいまいな表現は通りません。
「根拠があること」「再現できること」を文書で示す能力が求められます。
英語力
必須かどうかはポジションによりますが、あれば確実に仕事の幅が広がります。
- 欧米メーカーとのメールでのやりとり
- 英語の技術仕様書・ガイドラインの読解
- 海外出張・海外来客対応
こうした場面で英語力が求められます。
英語スキルに対してTOEIC取得スコア連動の資格手当を設けている専門会社もあり、英語を強みにしたい方にとっても、バリデーション職は選択肢になりえる分野です。
バリデーション職が向いている人・向いていない人
最後に、バリデーション職の適性についても触れておきます。
私の実感として、以下のような方はこの仕事に向いていると思います。
- 細かい作業が苦にならない
- 書類・文書作成に抵抗がない
- 根拠を積み上げる論理的な思考が好き
- 目に見えない品質を守ることに使命感を感じられる
一方で、向いていないと感じる方のパターンもあります。
- 変化が多くダイナミックな仕事を求めている
- 書類仕事に強い苦手意識がある
- 短期間で目に見える成果を求めたい
バリデーション業務は、日々の積み重ねが品質を支えている仕事です。
地道に文書を積み上げ、検証を繰り返す作業に面白さを感じられる人にとっては、非常にやりがいのある分野だと思います。
逆に「もっとすぐに結果が見たい」「書類よりも現場で動きたい」という方には、向いていない可能性があります。
転職や就職の判断材料として、正直に伝えておきたかった部分です。
まとめ
医薬品バリデーションは、「この製造方法で一定品質の薬が作れることを科学的に証明し、文書に残す仕事」です。
GMPというルールの枠組みの中に位置づけられており、設備の検証(IQ/OQ/PQ)、製造プロセスの検証、洗浄工程の検証など、複数の種類があります。
製薬会社の品質保証部門(QA)が主に担当しますが、バリデーション専門のコンサル会社という選択肢もあります。
地道な仕事ではありますが、安全な医薬品を世の中に届けるための根幹を支えている業務です。
製薬業界への就職・転職を考えている方の参考になれば嬉しいです。